2021.06.04
「歳をとると忘れっぽくなる」なんて言いますよね。
そういうものなんだから仕方ないと思いきや…もしかすると日々の習慣次第でふせぐことができるかもしれません。
理化学研究所の木村らはマウスを使った実験で、過去の記憶を長時間思い出すと、その記憶が脳にしまわれるときに「タウ」というタンパク質が蓄積されやすくなることを明らかにしました。
このタウタンパク質は、脳に蓄積すると記憶障害を引き起こすことが知られています。
つまり、長時間過去の思い出にひたり、かつそれが頻繁になってくるほど脳が老化しやすくなるということなのです。
それまで、タウは年齢を重ねるほど蓄積量が増えることがわかっていたのですが、その理由はよくわかっていませんでした。
この実験によって、歳をとるほど経験が増え、過去を思い出す機会が多くなるためにタウの蓄積量が増えるのではと考えられています。
あのときはよかったなぁ…なんて、昔の仲間と集まってたまにならよいかもしれませんが、いつも昔のことを考えていると心身に悪影響を与えてしまうというわけです。
そもそも私たちは不安が強い状況や自分に自信がないとき、過去のことを思い出して自信を取り戻そうとすることがあります。
たとえば、学生時代の部活の話であったり、仕事の武勇伝であったり。
中には10年も20年も前の話をまるで昨日のことのように鮮やかに話せる人がいますよね。
これが、「あのときがんばれたんだから今度も乗り越えられるはずだ!」と自分をふるい立たせるためならよいかもしれませんが、「あのときはよかったのになぁ…」としみじみ振り返り、さらに「あのときに比べて今は…」と、ギャップを感じてショックを受けるようになると大変です。
新しい刺激やストレスに弱くなる可能性があります。
古い記憶を忘れるのには新しい行動が有効です。
アメリカのノートルダム大学のラドヴァンスキーらによると、新しい刺激によって脳の短期記憶が刺激されて、直前の記憶が上書きされてしまうからだと考えられています。
新しい行動をすると古い記憶は忘れていくということです。
つまり、ちょとくらいイヤなことがあっても、行動すれば忘れてしまうとも言えます。
これは長期記憶についても同様で、ケンブリッジ大学のアンダーソンらの研究によると、新しいことを学ぶことは古い記憶を忘れることにつながることがわかっています。
過去を生きるのではなく、今この瞬間を生きたほうがよいというのは、脳の観点から言っても同じらしいです。