中村恒子氏は、1929年生まれの現役医師。
「仕事」についてこう語っている。
『88歳になるまでずっと週6日のフルタイムで働いてきたので、今までたくさんの人から「先生は、よっぽど仕事がお好きなんですねぇ」と尋ねられてきました。
でも私は、一度も「仕事が大好きや」と答えたことはありません。
「大嫌い」ではありませんが、「大好き」でもない。
「好きか嫌いか」と言われれば、「好きなほう…かな?」。
私にとって仕事とは、いつもそんな感じの位置づけです。
たとえば20代のときは、「仕事をしない」という選択肢はありませんでした。
親には頼れへんかったから、生きるためには働く必要がある。
好き嫌いなど考えたりする暇も余裕もないって感じでしたわ。
結婚してからも、好き嫌い以前に「やり続けなければならないもの」やったから、同じような調子です。
そんなふうに何十年も続けてたら、仕事をすることは生活の一部になってしまって、子どもが独立したあとも自然と続けていました。
まあ、家にいてもすることはありませんしなぁ(笑)。
「仕事は好きでなければいかん」「楽しくやらないかん」そんなふうにまじめに考える人もいるかもしれへんけど、そんな必要はまったくないやと思います。
もちろん、やりたくて仕方がないことに出会えたらそれがいちばんかもしれへん。
でも、それは宝くじに当たるようなもんなんやと思うくらいがちょうどええ。
働いていれば、いつか好きな仕事に出会える…かも。
それくらいの気持ちでいたほうが変なストレスを感じず仕事ができるもんです。
やらないようりは、やるほうがマシかな?
それくらいのモチベーションが、仕事を無理なく続けるコツやと思います。
そうすると過剰に期待しなくてすみますから、めんどうくさいこともイヤなことも「まあ、ときどきはそういうことも起こるやろ」と大らかになれますわ。
その中で、ふと嬉しいことや喜びがときどき味わえれば、それで十分やと思いますね。
たとえば掃除や洗濯なんかも、大好きでやっている人は少ないでしょ。
「生活のためにやっている」のと違いますか?
仕事も同じですわ。
旅行や遊びも、たまに行くのは楽しいけど、何回もしてるとだんだん飽きてきます。
刺激というのは、すぐに慣れてしまうもんなんです。
そもそも、仕事の好き嫌いなんて実はちょっとしたもんで、仕事の内容よりも人間関係のほうがよっぽど大事だったりします。
私の経験上、仕事が嫌いになる原因のほとんどは、人間関係です。
どこへ行っても仕事が嫌いになってしまうのは、人との付き合い方のほうに問題があるかもしれません。
そんなことで、仕事をしていく上では格別好きか嫌いかを考えなくてよろしいと私は思っています。
そしてどんな仕事であれ、働けるうちは何歳になっても続けたほうがいいでしょうな。
時間が余ると、人間ろくなことを考えませんのや。
気にしないでええことまで気になってくる。
余計なことに首をつっこみたくなってくる。
暇は、人間にとって毒にもなります。
せやから、「ほどよく忙しい」のがええ塩梅(あんばい)でしょうな。
そして歳をとってきたときには、食事や掃除のように、仕事が自然で穏やかな習慣になっていたら言うことなしやと思います。』