2020.10.06
「ワシャアしょうもない男でしてなあ」
走り出すと同時にタクシーの運転手が語りかけてきました。
「稼いだ金は全部マージャンなどの遊びに使ってしまい、一銭も家には入れない。
女房は一言も文句をいわずに『お父さんの稼いだお金だから、ご自由にお使いください』といい、子供は女房が一生懸命働いて、立派に教育してくれました。
女房は器量が悪いので、どこかへ行くときは『うしろから離れてついてこい』などといって、ひどい亭主でした。
自分で稼いだ金だけでは足りなくて、女房に『借せろ(名古屋弁で「借せ」の意)』とまでいいましてね。
あるとき、女房に『金を借せろ』といいました。
女房が『まあ、お父さん、お茶でも飲みましょう』といってパイナップルの缶詰を持ち出してきたのです。
“金を借せろというのに何がお茶だ”と思っていました。
女房が缶詰をあけたら、中に百円玉や五百円玉がいっぱい詰まっていましてネ。
『お父さん、少しずつ少しずつ貯金したものです。今これっきりないですが、よかったらこれ使ってください』というんです。
私は頭をぶんなぐられる思いがしましてネ。
すまなかった!とほんとうにあやまりました。
それから私の人生観は百八十度変わりました。
せめてもの罪ほろぼしの思いで、月に一度、女房と女房の親しくしている友達とを車に乗せて、女房の好きな温泉めぐりをしておりますんですよ」