多くの町工場が姿を消していく中で、ヒルトップが成長し続けているのは、凝り固まった業界の思い込みを捨て、従来の工場のあり方を大きく変えたからです。
ヒルトップはいったい何を変えたのか。
夢工場を実現する過程で、ヒルトップが取り組んだ変革は、たった5つです。
1.「人」を変えた
2.「本社」を変えた
3.「つくるもの」を変えた
4.「つくり方」を変えた
5.「取引先」を変えた
1.「人」を変えた
職人の世界には、「本物の職人」と中途半端な「にわか職人」がいます。
製造業が衰退したのは、「にわか職人」が原因です。
私は本物の職人が大好き。
本物の職人技は本当に美しい。
一方で、私は、にわか職人が大嫌いです。
彼らは、古いしきたりを守ることしか考えていません。
2.「本社」を変えた
「中小企業こそ本社の外観にお金をかけるべきだ」という信念から、2007年12月に京都フェニックス・パークに新社屋を竣工しました。
「地味で暗い」「油まみれで汚い」という町工場のイメージを払拭。
建坪600坪の5階建、東側は全面ガラス張り。
外観はコーポレートカラーのピンク。
4階には社員みんなが集まる社員食堂、最上階には筋トレルームや浴室もあります。
工場内には、最先端の5軸マシニングセンター(240種の刃物を装備したコンピュータ制御の工作機械)もあり、本社を訪れた方の多くが、「鉄工所には見えない」と驚かれます。
3.「つくるもの」を変えた
人口減少時代を迎え、日本から大量生産のニーズは、ほぼ消えました。
これからの小さな会社は、多品種少量生産で生き残っていくしかありません。
とても厳しい時代です。
そこでヒルトップは、大量生産品(量産部品)の扱いをやめ、単品ものに特化しました。
精密機械、医療機械、航空機部品、自転車部品、マイクスタンドなど、アルミ加工製品なら、どんなものでも単品・少量で加工します。
現状は、制作数1~2個の多品種単品が受注全体の8割。
月に3000種類をオーダーメイドでつくっています。
4.「つくり方」を変えた
普通の鉄工所の場合、就業時間の8割が機械の前、2割がデスク仕事ですが、ヒルトップではこの割合を逆にしました。
昼間は、デスクで人がプログラムをつくる。
人が帰った夜中に、機械に働いてもらいます。
これが、私たちが「ヒルトップ・システム」と呼ぶ生産管理システムです。
このシステムには、職人がこれまで追求してきた技の結晶の数々がデータベース化され、機械や工程の決定、プログラム作成のパラメータ(プログラムの動作を決定する数値)の入力を大幅に削減しています。
通常は800項目以上を入力しないといけませんが、このシステムなら、たった25項目ですんでしまいます。
受注から部品製作、納品まで全工程でITが駆使され、多くのプロセスが自社開発ソフトでデジタル化されています。
データを機械に送信すれば、夜のうちに工作機械が稼働し、朝には完成します。
これにより、納期が半分になりました。
受注から納品までの最短日数は、新規受注で5日、リピート受注で3日です。
5.「取引先」を変えた
下請会社の多くは親会社からの受注に依存していますが、親会社次第で受注がゼロになることもある。
こんな状況では、常に不安定な経営を強いられます。
下請けという待ち型ビジネスモデルの行き着く先は、「コストダウン」しかない。
取引先を失うことを恐れるあまり、不利な条件で取引を続けるくらいなら、リスクを背負ってでも自立するべきです。
当社では、1社依存率を30%以下にとどめています。
取引先を分散すれば、1社失っても倒産リスクを回避できます。
ヒルトップでは、取引先が毎年、約100社入れ替わっています。
従来の取引先を失うのは事業の新陳代謝と前向きにとらえています。
だからこそ、どんどん新しいことにチャレンジできるのです。