2020.08.30
「温かな気持ち」「高い地位」などの言葉を私たちは当たり前のように使っています。
「蜜のような甘い言葉」は、愛の囁(ささや)きの比喩として、だれでもすぐに理解できます。
でも考えてみれば、これは不思議な話です。
世界にはさまざまな言葉や文化、習慣があるのに、なぜこの比喩が注釈もなく翻訳できるのでしょうか。
この疑問に、現代の脳科学はこう答えます。
「それは比喩ではなく、実際に脳の味覚に関する部位が活動しているからだ」…愛の言葉と蜜は、脳にとっては同じ刺激なのです。
これだけなら驚くようなことではないかもしれませんが、テルアビブ大学のタルマ・ローベル教授は、この因果関係が逆になっても成り立つことを発見しました。
「甘いものを食べながら聞いた言葉は甘く感じる」のです。
ほんとうにこんな不思議なことがあるのでしょうか。
それを次のような実験で確かめてみましょう。
学生がエレベーターに乗ると、そこには本とクリップボード、コーヒーカップで手がふさがった助手がいます。
助手は学生に、「ちょっとコーヒーカップを持ってくれませんか」と頼みます。
次に学生が研究室に入ると、実験担当者からある(架空の)人物についての資料を読むようにいわれます。
その後、学生にこの人物の印象を尋ねます。
ランダムに選ばれた学生が同じ資料を読むのだから、質問への回答に統計的な差は生まれないはずです。
しかし興味深いことに、特定の質問項目にだけはっきりとしたちがいが表れました。
それは、「親切/利己的」など、性格が温かいか冷たいかを連想させる質問でした。
なにが学生たちの回答を左右させたのでしょう。
じつはエレベーターのなかの助手は2種類のコーヒーを持っていました。
ホットコーヒーとアイスコーヒーです。
驚いたことに、エレベーターのなかで一瞬、ホットコーヒーを持った学生は資料の人物を穏やかで親切だと感じ、アイスコーヒーを持った学生は怒りっぽく利己的だという印象を抱いたのです。
温度の感覚は、無意識のうちに、その後の人物評価に影響を与えるらしいです。