『私は、めったに自分の会社には行きません。
なぜかというと、私が会社に行くと、社員がみんな「一人さん、話を聞かせてください」って集まってきちゃうのです。
本当にうれしいんだけど、そうなると、みんなの仕事の邪魔をしちゃって、申し訳なくてね。
「社長が会社にいなくて、いいんですか?」って、いいんです。
社長の仕事は、一個です。
給料日に給料を渡す。
これしかありません。
あなたの会社の社長さんがこれをやりつづけているなら、立派な社長です。
そして、社長というのは、従業員にちゃんと給料を渡すために世の中を見抜くのです。
「今の世の中はどうなんだろうか」
「このまま行くと、この世の中は、どうなるんだろう」
いまがわかって、次にどういう時代が来るかがわかれば、先に備えをして待っていれば経営はうまくいきます。
そのことと、社長が会社にいることは別なんだ、というのが一人さん流です。
でも、世間は違います。
ヨソの社長さんは、毎日、会社にいます。
そのうえに、従業員より早く会社に出て、最後まで残って働いています。
そういう社長さんを「エライ社長だ」と、世間の人はいうのですね。
なぜ、そう思うようになったのかを見抜いてみましょう。
それは、日本の会社のほとんどが下請けだからです。
下請けの会社の人たちは、体や技術を使って働く「働き者」です。
わかりますか?
親会社は、自分のところで人を雇うよりも、下請けに出したほうが安いし、効率がいいから、出しているんですよね。
すると、安いから、下請けの人たちは「親会社より、うんと働かないと食べていけない」ということになってきますよね。
なおかつ、親が会社から「あなたの会社で、これ作って」と、仕事を渡されます。
お客さんが仕事を考えてくれるから、頭を使うのが仕事ではない。
「働き者」が仕事なのです。
その「働き者」の代表が社長であって、みんなより「うんと働き者」の社長が「エライ社長」とされていたのです。
ところが、今になってみたら、親会社から仕事が来ない。
いくら「働き者」でも、仕事が来なかったらお給料が出ません。
何をいいたいのかというと、自分で頭を使って仕事を考え出さなきゃいけない時代が来たんだ、って。
仕事を考え出せる社長でなきゃ、生き残っていけなくなってきているのです。
この眼力があると、社長を見る目が違ってきます。
「ウチの社長はホントにいい社長なのかどうか」といったとき、社長が朝から晩まで外を出歩いていてもいいのです。
外にいても、仕事を考え出すか、仕事を取ってくれば、それでOKなんです。
朝から晩までずぅーっと会社にいたって、仕事がなかったら、いてもしょうがないでしょう。
そして、社長さん、よろしいですか?
時代というものは、変わります。
そのとき、社長は社長で「世の中は変わったんだ」という眼力を持っていないと、今までの成功例をいくら並べても、うまくいかないのです。』
時代は恐ろしい勢いで変わる。