さまざまな業界でコンサルタントとして成功できた秘訣を尋ねられたドラッカーは、こう答えた。
『私は、コンサルティングする業界の知識や体験をもとに問いを投げたり対応したりしことはないよ。
逆だ。
知識も体験も使わない。
まったくだ。
私の武器は無知。
どういう業界のどういう問題であっても、それを解決しようとするだれかを助けるには、無知が一番大事な要素になる。
使い方さえわかれば、無知はそんなに悪いものじゃないよ。
そのあたり、経営者なら知っておいて損はないね。
問題に対処する際、過去の経験から知っていると思っていることをベースにするのではなく、なにも知らないと思ってあたるべきなんだ。
なぜなら、知っていると思っていることは、案外まちがっているものだからだ』
昔から、商店街や地方を活性化させるのは、「よそ者、若者、ばか者」だと言われる。
昨今ではその条件にあてはまらない事例がだいぶ出てきているが、いずれにしても、他の人とは違った視点を持ち、いわゆる「無知」を武器にして、リスクを恐れず行動するという点では、同じだ。
パナソニックの創業者、松下幸之助氏は、それを「素直な心」と言った。
『一般に、素直な心というと、おとなしく従順で、何でも人の言うことをよく聞いて、よかれあしかれ、言われたとおり動くことだというように解釈される。
しかし松下幸之助のいう“素直な心”はもっと力強く積極的なものである。
それは私心なく、くもりのない心、とらわれない心、自分の利害とか感情、知識や先入観にとらわれず、物事をありのままに見ようとする心である。
人間は心にとらわれがあると、物事をありのままに見ることができず、その実相、真実の姿を正しくとらえることができない。
それでは判断を間違え、行動を過つことになりやすい。
それに対して素直な心は、何ものにもとらわれず、物事をありのままに見ることのできる心である。
したがって素直な心になれば、物事の実相が見える。
それに基づいて、何をなすべきか、何をなさざるべきかということも分かってくる。
なすべきを行ない、なすべからざるを行なわない真実の勇気もそこからわいてくる。』(松下幸之助ハンドブック)より
ドラッカーのいう「無知を武器にする」とは、素直な心で、知らないことは尋ねたり、教えを受ける。
そして素直な心で、とらわれず、決めつけず、おごらず、意固地にならず、物事を謙虚にありのままに見る。
すると、「〇〇でなければならぬ」という「ねばならぬ」がなくなり、もっと自由が発想がでてくる。
「打つ手は無限」という言葉がある。
素直な心で、自分の「無知」を生かせば、どんな困難に対しても、「打つ手は無限」となる。