昔々、あるところに、食通で有名な王さまがいました。
その王さまは「食べるために生きているようなもの」と言われるほど、毎日の食事や宴会にこだわっていたのです。
そしたある時、とにかくおいしいものが食べたい一心から、「最高の料理を作ってみせた者に、金貨100枚を与えよう!」というお触れを出しました。
すると、王国屈指の料理人たちが何人も名乗りを上げました。
そこで王さまは、それから二ヶ月のあいだ、日曜日ごとにその料理を食べてまわったのです。
そしてどの料理人のもとでも昼から日没まで延々と食べつづけ、暗くなったころに手帳に評価を書き入れるのでした。
さて、この料理コンクールも終わりに近づいたころ、ひとりの老人が城にやってきてこう言いました。
「コンクールのことを聞きおよび、山奥から出てまいりました。
私が知っているある宿屋では、陛下がこれまで召し上がったことのないようなおいしい料理を出します。
お望みとあれば、この私がお案内いたしましょう」
これを聞いて、王さまがじっとしていられるわけがありません。
さっそくいそいそと白馬にまたがり、この老人に案内させることにしました。
ところがおどろいたことに、老人の馬は勢いよく駆けだすと、そのまま全速力でどこまでも走りつづけるではありませんか。
なんと半日たっても、歩をゆるめる気配さえ見せません。
王さまはこれを必死で追いかけながら、何度も「まだ遠いのかね?」と聞きました。
すると老人はそのたびに、「どうかご辛抱ください。とにかく素晴らしい料理が待っておりますから!」とくりかえすばかりです。
二頭の馬は平原を突っ切り、丘を越え、川の浅瀬をわたり、やがて山道に入りました。
さらに何時間か行くと、やっと峠の上にぽつんと小屋らしきものが見えてきました。
でも、そこからはもう馬では上がれません。
とうとうその小屋にたどりついた時、王さまは汗びっしょりで、文字通りおなかが空いて死にそうになっていました。
「さあ、あと数分のご辛抱ですぞ。すぐかまどに火を入れますから」と老人は言った。
「なんじゃと!」
「ではおまえが料理するのか?助手はおらんのか?皿洗い係はどこじゃ?このわしをだましたのか!」
「まあそうおっしゃらずにお待ちください」
老人は平然と答えました。
「登ってくる途中でキノコを摘(つ)みました。これはおすすめですぞ!」
王さまは開いた口がふさがりませんでした。
こんな無礼な話は聞いたこともありません。
でも、もうおなかが空きすぎて、それ以上腹をたてる元気もありません。
そこで、フライパンがじゅうじゅう音をたてるのを聞き、油のいい匂いがだたよってくるのをかぎならがじっと待ちました。
老人はキノコ入りのオムレツを作っていたのです!
こうしてとうとうオムレツにありついた王さまは、もう手帳を開こうともしませんでした。
評価などつけるまでもなく、それがこれまでで最高の料理だったのです。
なぜなら、王さまは生まれてはじめて本当におなかが空いていたのですから!