2022.07.22
島地克彦氏の『はじめに言葉ありき おわりに言葉ありき』二見書房より…
人生で大切なことは、
一に健康、
二に話し相手、
三に身の丈の金である。
何百億円手にしても病気がちだったら、なんの意味もない。
まず体が健康でなければ、折角の人生を愉しむことはできない。
わたしの場合の健康とはなにか。
シングルモルトを飲んだときうまいと感じること。
葉巻を吸ったときしあわせを感じること。
ゴルフの前夜、寝ようと思ったとき、スイッチを押したように快眠にはいれること。
一度大腸ガンを患って十五センチ切り落とした大腸ではあるが、写真を撮りたくなるような見事なウンコをすること。
そしてヒグマのステーキをおいしく食べて、翌朝、下半身に心地よい痛みを感じて目が覚めることだ。
人間は一人では生きていけない。
話し相手が必要だ。
それも相性のいい話し相手がベストである。
わたしくらいの歳になると、男でも女でも関係なくなる。
現在、いちばん年上の素敵な話し相手は、九十歳の瀬戸内寂聴さんだ。
先日もお見舞いがてら京都にいって寂庵におじゃまして、四時間もおしゃべりしてきた。
寂聴さんには神々しい色気がある。
それからわたしより二つ、三つ年上の塩野七生さんだ。
帰国したときは、必ずわたしが仕事場につくったプライベート・バー、〈サロン・ド・シマジ〉にやってきて、夜遅くまで話し込む。
アルマーニに身を包んだ七生さんは話柄(わへい)もお洒落である。
だから毎月ローマに長電話をしたくなる。
年下の素敵な話し相手としては新潮社の編集者中瀬ゆかりちゃんは格別だ。
ゆかりちゃんのレスポンスが最高だ。
よく笑いよく飲む。
金は天下のまわりものである。
自慢じゃないがわたしにはいまだに貯金がない。
簡単な話である。
出ていく分がはいればいいことだ。
わたしの体を通過した金はわたしになにかを遺してくれた。
それがわたしの身の丈の金なのである。