車内では楽しい話題が続き、天気にも恵まれました。
熊本市に近づくころ、その薬剤師の方は真顔になって、こんな質問をされました。
「実は私は今、薬局を続けるべきかどうか悩んでいるんです」 とおっしゃるのです。
「それはまた、どうしてですか?」 と私。
「いろいろな勉強をしてきて、薬というものが、本当に人に役立っているのか、と思うようになりました。薬を売れば売るほど、人の体を壊しているような気がして...」
世の中にこんな人もいるんだ、と私は嬉しくなりました。
「その相談をしたかったんです。
人生上の大事な問題ですから、今日一日、店に出るか出ないかは、大した問題ではなかったんです」 と、その方。
「なるほど、それで今日、この車にご一緒されたのですね。私を送るだけでしたらもったいないと思っていたのですが。で、薬局の方は、やめることも考えているということですか?」
「もちろんそうです。薬害とかもありますし、薬というものが本当に役に立つものなのか、と」
そんなやりとりがあって、最終的に私がした提案は次のようなことでした。
「薬局に薬を買いに来る方は、体の不調や痛みを抱えている人ですよね。
その人たちのとりあえずの、対症療法薬として、薬を売るという立場は肯定してもよいのではありませんか。
そして、そこに罪悪感のようなものがあるなら、こうしてみるのはどうでしょうか。
それは、今までの薬局の薬剤師としての仕事の10倍の量を、世のため人のため、社会のために、貢献するということに費やす、ということです。
そうすれば、今までの仕事は、自分の人生の10分の1でしかなくなるから、自己嫌悪や罪悪感は、ずいぶん薄くなるのではありませんか。
しかも、“仕事”はそのままですから、生活とか収入とかの部分もクリアできる。
ただし、今までの10倍ものエネルギーで生きるわけですから、人生は大変に過酷なものになります。
それができれば全て解決だと思いますが」
その薬剤師の方は、深く深くうなずきました。
「投げかけるものがマイナス100あっても、その結果、じゃあ200のプラスを投げかけようと決意をし、実行したら、結果的に神は喜んでいるんじゃないか、と小林さんの文章にありましたね。私もその生き方でいきます」
美しい笑顔でした。
そこから始まった具体策も、これまた楽しいものになりました。
それは、「こんな生き方やこんな考え方の人が、こんな病気になるみたいだ」というコピー資料を、とりあえず10種類くらい作ってみよう、というもの。
“現場”におられるのですから、そういう“統計的”な推論を得やすい立場ではあるのです。
私たちのやりとりを聞 いていた、運転をしてくださっていた方は、ポツリとこんなふうに言いました。
「そういうふうな解決方法をとったら、クヨクヨしたり自分を責めたりしないですみますね。 いつでも、それが10分の1になってしまうような、プラスの投げかけ10倍を考えていった ら.. .」
車の窓に、ハラハラと木の葉が舞っています。
やわらかな秋の日射しの中で、車の中は春のような暖かさに包まれていました。 小林正観
今日も生きてることに感謝♬