2022.06.04
一日、どれだけありがとうという言葉を、私たち、口に出して言っているでしょうか。
私はある婦人から、そんな言葉を教えられたことがございました。
そのご婦人が小学校三年ぐらいのときだったと言います。
お父さんが、事情があって自殺をなすったそうです。
お母さんが自分に、諄々と説いてくれた。
お父さんが自殺をなすったということ、人の噂は七十五日と言って、噂の消えるときもある。
けれども、これから長い人生の中で、あなたが学校に入るとき、就職をするとき、結婚をするときには、必ず、
「あの家は、お父さんが自殺をなすったからね」
そういうことがささやかれる。
そして知らなかった人まで、
「へえ、そう。あの人、なんとなしに暗いと思ったら、やっぱりお父さん、自殺したの」
と言う。
知らない人までが自殺したことを口にして、自分の縁というものがだんだんとみじめなものになってくることがある。
それだけは消えることはない、覚悟しなさいとおっしゃったそうです。
「どうして生きたらいいの」
とお母さんに聞いたら、
「それもね、乗り越えることはできる。それは一日、十人の人に、真心を込めてありがとうというあいさつをすること。
一日十人の方にありがとうというあいさつをしたら、一年間3650人の人に、素晴らしい行為ができることなんだよ」
そのことをお母さんは言い残してくださったそうです。 石川 洋