世界のホームラン王・王貞治さん。
現役時代の王さんは、打ち終わった後にバットを投げ捨てることはありませんでした。
必ずバットのヘッドが地面に着いてから、着けた状態で放すというバットの置き方をしていました。
同じような志向性を持っている野球選手が、約30年ぶりに登場しました。その人もバ ットを放り投げない。
必ずヘッドをつけて、地面に着いた状態で手を離す。
世界の安打製造機・シアトル・マリナーズのイチロー選手です。
たまたまテレビでイチロー選手が敬遠をされたシーンを目にしました。
2連覇を遂げたワールド・ベースボール・クラシックのワンシーンだったでしょうか。
敬遠をされた彼は、バットを両手で地面にそっと置いて一塁へ歩いていきました。
やはり放り投げてはいませんでした。
道具を大事にしているふたりは前人未踏の大記録を打ち立てました。
道具を大事にしていると、どうも成績がついてくるみたいだ。
もしかすると、ピッチャーが投げたボールがググッと変化した時に、バット自身がこの人の役に立ちたいとボールを捉えにいっているのかもしれません。
バットが味方をしている。
守備でファインプレイを見せるイチロー選手のグローブは、いつも大切に扱われているお礼として、自らボールを捕りにいっているのかもしれません。
ホームランを打たれると、自分のグローブを足下に叩きつけるピッチャー。
三振をするとバットを地面に叩きつけて折ってしまうバッター。
このように道具に当たり散らすような人生観を持っている選手が、大成したのを見たことがありません。
自分が使っている道具を味方につけることができる人は、道具からも応援され、当たり前のようによい仕事をするのです。
ここで小林正観さんの話をしましょう。
著述業で小林正観が使いこなしている道具は原稿用紙とペンです。
いくら消耗品といえども、乱雑に扱ったことは一度もありません。
もうひとつ、著述業として大事な道具は言葉でしょう。
言葉は著述業においてもひとつの道具です。
小林正観にとって生活を支えてくれる道具は「言葉」であるのだから、日常的に乱暴な言葉を使わないほうがいいみたいです。
私は目下の人に対しても一切呼び捨てにはすることなく、「さん」づけで呼びます。
いつでも、敬語で人と話すことにしています。
その結果、言葉を道具としている著作や講演は、多くの人に支持されてきたように思うのです。
一般的には講演は1回聞けば十分です。
同じ人の講演を二度は聞かないものです。
私は 年間に300回ほどの講演会をしていますが、年間でもっとも多い人で111回、2番目 の人は103回も参加しているのです。
「内容はともかくとして、聞いていると心地いい」という人が多いようです。
荒っぽい乱暴な言葉ではなく、なるべくていねいな言葉を使ってきたおかげかもしれません。