2021.12.02
燕(えん)の国を立派なものにしたいと願う王に招かれた郭隗(かくかい)という賢者が、次のような話をしました。
「むかし、千金のお金を出してでも、一日に千里を走る馬を手に入れようと考えた君主がありました。
ところが、三年経っても、そんな名馬は見つかりません。
ところが、小間使いをしている男が、『私が買って参りましょう』と言ったのです。
君主は、彼を買いにやらせます。
すると三ヵ月歩き回った頃に、彼は千里の馬を見つけました。
しかし、残念ながらその馬は死んでいたのです。
男は、しかたなく五百金を出して馬の死体を買うと、それをもって君主のところへ戻りました。
君主は、男を叱って言います。
『私が欲しいのは生きた馬だ。死んだ馬をこんな高いお金で買って来るとは何事だ!』
男は答えました。
『君主様、私を叱るのはかまいませんが、黙って見ていてください。
そのうち、千里の馬が何頭も手に入ることになりますから。
いま世の中は、君主様が求める名馬のことでもちきりです。
死んだとはいえ、名馬とあれば、五百金を出しても買う君主のことだ。
名馬の価値がわかる君主は、生きた馬なら、千金を出して買ってくれるに違いない、と』
それから一年もしないうちに、君主のところには、名馬が三頭もやって来たのです」
郭隗はこの話を終えると、燕の王に言った。
「まず、私、隗(かい)をお召しになるところから始めたらいかがでしょうか」
郭隗は、自分を「死んだ名馬」にたとえたのである。
すると、名馬を求めた君主の話同様、数年もせずして、燕には賢者と呼ばれる人が全国から集まり、国は大いに栄えたのである。