社長のつぶやき

「陰極まって陽に転ず」

2021.07.21

以前、数十人で中国はシルクロードの旅に出かけたことがあります。

玄奘(げんじょう)三蔵が 西域への旅に出て最初に立ち寄った高昌国(こうしょうこく)があったトルファンから、敦煌(とんこう)の入り口 である柳園(りゅうえん)というところまで、特急の寝台列車に乗って移動するのです。

10月の初めでしたが、ものすごく寒い。

例年にない寒さだということでした。

暖房を入れてくれるように車掌に伝えましたが、まだ季節ではないので入れられないとのこと。

寝台列車の個室の間にある廊下では、こぼれた水が凍っていたので、氷点下にまで下がっていたようです。

あるのはふとんあるいは毛布1枚だけ。

そんな過酷な状態で私たちは11時間も列車に揺られつづけました。

翌朝、駅にたどり着いた私たちは、駅の向かいにある食堂で食事をとることになりました。

ここもまた、暖房はついておらず、氷点下の寒さです。

そこで出てきたのが、人肌よりややあたたかいぐらいのうすい豆乳(だと思われる液体)でした。

テーブルを囲んで数十人の人が、みんな同じ姿勢――前かがみに背を丸めながら、両手で器を大事そうに包み込んで、その豆乳をすすっていたのです。

その光景を見て、私は「美しい」と思いました。

もし、あたたかい列車で旅をして、あたたかい食堂で出されたら、「ぬるい」「まずい」と文句をつけるにちがいない代物 です。

でも、11時間にわたる凍りつくような寒さのなか電車に揺られてきたおかげで、生ぬるい、うすい豆乳をみんなが笑顔で、ありがたそうにいただいている。

それはまさに「幸せ」に満ちたシーンでした。

過酷な寒い列車での長旅は、はたして「不幸」だったのでしょうか?

そうではありません。

私たちが「幸せ」を感じるためには、その前には一般的に 「つらい、苦しい、大変」といわれる状況が起こるようです。

そういう構造になって いる。

それは、時計の振り子にたとえてもよいでしょう。

真ん中から右側が、一般的にいう「不幸」。

つらい、悲しいと感じる領域です。

一方、左側に行けば、いわゆる「幸 せ」だと思ってください。

「幸せを見せてください」と言われた神さまは、まず思いっきり右側に振り子を振ります。

そして私たちが、「もう耐えきれない、ギブアップ」と言うと、神さまはその 振り子から手を離します。

振り子は勢いがついて、真ん中を通り越して、大きく左側 (幸せ)に行きます。

そのことに気づいたら、私たちはつらいこと、苦しいこと、大変なことに遭遇したときも、一喜一憂せずに、平静な心でいられるかもしれません   小林正観