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社長のつぶやき

「ホテル杉の湯」のサプライズ

2020.06.19

奈良県の南西部に位置し、吉野杉の主産地である緑豊かな村・川上村。

この川上村にある村営の温泉旅館「ホテル杉の湯」。

大自然の中の小さなホテルから、この物語は始まっていきます。

2月のある寒い日のことでした。

いつものように宿泊予約のベルが鳴り、スタッフの中川さんは、応対に当たっていました。

電話の相手は、若い男性客でした。

宿泊希望の春は、吉野山の桜見物のお客様も増える時期、開花予測などを含めながら丁寧に話をしていたときでした。

ふと、電話の向こうの男性が神妙な声になり、少し恥ずかしそうに、こう言ったのです。

「あの…、桜のきれいな場所を教えていただけませんか?

実は…、桜の花が大好きな彼女にプロポーズしたいのです」

中川さんは、初めての申し出に戸惑いながらも、「わかりました。満開の次期を少し過ぎていますけど、探してみます」と、快活に答えました。

今までの杉の湯なら、「川沿いの桜がキレイですよ」というくらいの返事で終わっていたかもしれません。

しかし、この年の年頭の会で、「ホテル杉の湯はお客様と共に感動するホテルを目指す」という理念を、全員で共有したところでした。

中川さんの心の中にも、「お客様に喜んでいただきたい、お役に立ちたい」という思いが、わき上がっていたところだったのです。

中川さんからの報告を元に、早速、スタッフミーティングが開始されました。

「どこがきれいだろう?」

「どうしたら、彼女に喜んでもらえるのかな?」

「絶対うまくいってほしいなぁ!」

と、全員がまるで親友の手助けをするかのように、真剣にかつ笑顔で、心躍らせながら話し合いを重ねるのでした。

そしていよいよ、二人の宿泊日がやってきました。

一重の桜の時期を終え、八重の桜が満開の時期。

事前にスタッフとその男性・ヒロ君は、綿密な打ち合わせをし、この日を待っていたのです。

二人のために選んだ場所は、杉の湯の兄弟施設「匠(たくみ)の聚(むら)」。

ここの喫茶コーナーは景色も最高で、雨が降っても大丈夫、しかも、桜も近くに咲き誇る、絶好のロケーションです。

彼女の好きな曲はすでにリサーチ済みで、館内BGMの準備も完璧!

前日に手配していたレッドカーペットも、彼らの指定席に向かって入り口から敷かれています。

そして、匠の聚のコテージに宿泊していた家族連れにも、一緒にお祝いをしてもらうよう依頼したので、ちびっ子たちは嬉しそうにクラッカーを握りしめています。

そして、ようやく主役の二人が匠の聚に到着。

引き込まれるようにレッドカーペットに導かれ、指定席へ向かいます。

二人は仲よく語り合い、恋人たちの時間を楽しんでいます。

そっと柱の影から見守るスタッフ、クラッカーを早く鳴らしたくてうずうずしているちびっ子たち。

彼女の輝くような笑顔に、なかなかプロポーズの言葉が言い出せない彼…。

しかし、ようやく意を決し、事前に用意していた桜の花をそっと手渡しながら、想いを告げるのでした。

突然のできごとに目を丸くして驚く彼女。

そしてなんと、大きな瞳から涙があふれ出し、下を向いてしまったのです。

“彼女が泣いてる!”

“ええ~~~!”

隠れて見ていたスタッフも、思わず時が止まる思いです。

ふと彼のほうを見ると…。

“あわわ!彼も泣いてる!”

“これは…ま、まさか…”

心の中では大あわてのスタッフたち。

ところが…泣いていた彼が、涙をぬぐいながら、フッと笑いました。

振り向いたヒロ君は、隠れていたスタッフを見つけ、「OK」のVサイン!

「おめでとう!おめでとう!」

バン!バン!バン!

子どもたちも、ようやくここぞとばかりにクラッカーを鳴らし、大はしゃぎ!

突然ふわりと、窓の向こうに何かが降ってきました。

淡い桜色の大きな垂れ幕に、なんと大きな「おめでとう!」の文字が描かれています。

一斉にわき上がる「おめでとうございます!」の歓声。

これはホテル杉の湯の久保支配人から二人へのサプライズ・プレゼントでした。

思わぬ大勢の人からの祝福の嵐、そしてお祝いの垂れ幕の登場にびっくりした彼女の目から、さらに大粒の涙があふれ出し、止まらなくなっていきました。

「ありがとうございます。知らなかった。こんなにみんなに祝福してもらって…」

彼女の声は喜びのあまり震えていました。

ヒロ君は、彼女にわけを話し、「おめでとう!」の垂れ幕の前でそっと彼女を抱きしめるのでした。

こうして二人は愛を誓い合い、その後、お互いの家族に挨拶に行き、一年後には新しい人生をスタートさせていったのです。

本当におせっかいなホテル杉の湯のキューピットたちでしたが、幸せなお二人の姿を見て、逆に自分たちが幸せな気持ちになっていたことに気が付きます。

「お客様の笑顔が、こんなに嬉しいなんて…。

私たちの仕事って、こんなに素晴らしいのだ!」

ホテル杉の湯の目指す「お客様と共に感動する」ことの素晴らしさを、この二人から教えてもらったのだと、スタッフは感じています。

スタッフから二人へのメッセージは、

「ありがとうございます。

ヒロ君、チサさん、永遠にお幸せに!

私たちは、いつもこの吉野の地で、お二人を心から応援しています。

~おせっかいなキューピットたちより~」

という言葉で、結ばれていました。

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