遠きをはかる
2019.10.13
よく周囲から「48年も増収増益を続けてすごいですね。秘訣を教えて下さい」と言われます。
講演の依頼もたくさんきます。
でも、私は大概はお断りしています。
なぜなら、経営には即効薬はないからです。
私がお話できるのは、「当たり前のことを当たり前にやるしかない」ということだけです。
これでは、講演にならないでしょう。
今の経営者は即効薬を求め過ぎます。
奇を衒(てら)うような上手い儲け方があるのではないか、と虫のいい方法を探しているのです。
不景気で苦しいのだろうから、気持ちは分かります。
しかし、そんなものはありません。
枝葉をどんなに伸ばしても、幹が太くならないと、木は倒れてしまいます。
会社も同じです。
その会社が持っている経営理念、これこそが幹であり、変えることなく培っていかなければならないものです。
経営が行き詰ると、とかく新しいことを試みようとするものですが、その会社の原理原則に反することをやっても成功しません。
やはり遠きをはかって、地道に努力するしかありません。
大切なのは、どんな小さなことでもいいから、今できることからすぐに始めることです。
遠きをはかって「こうありたい。こういう会社にしたい」というビジョンを描いたら、いきなりそうはなれないのですから、「これくらいは今から準備してやっていこう」と考えて実行することが重要だと思います。
何百年も続いた老舗だって、最初から老舗だったわけではありません。
創業の志を守って、コツコツと商売のあるべき姿を追い求めてきたからこそ、現在の姿があるのです。
中小企業でもすぐにできることは、たくさんあります。
言葉遣いを良くする、丁寧な挨拶を心がける、掃除を徹底させる…これなら、お金もかけずに、今すぐにできるでしょう。
「そんなこと」と、バカにしてはいけません。
こうしたことが、ファンづくりにつながるのです。
伊那食品工業では、この三つは社員全員に実行させています。
今では、何も言わなくても、自然にできるまでになりました。
小さなことを軽んじることは、大きなことを軽んじることと同じです。
小さな間違いでも、積み重なっていけば大きな間違いになります。
逆に、小さくても良いことを行うと、好循環が生まれます。
少しだけでも良くなれば、「また、もう少し良くしよう」と考えるのが人間というものでしょう。
社員みんなが「もう少し良くしよう」と努力するようになったら、会社はどんどん良くなります。
ですから、私は小さいことにも口を出します。
たまに「会長はそういう細かいことまで口を出さないで結構です」と言われますが、そのような時には「何が小さくて、何が大きいのか、どうやって分かるのか」と問うことにしています。
大きなお金が動くことだけが、大きなことでしょうか。
多くの人に関わることだけが、大きなことでしょうか。
ささやかなことでも良いことを行うことは大きなことだと、私は思っています。
一個の商品に不良品が出たら、全品を回収しなければならなくなることもあります。
小さなことは大切なことなのです。
遠大な計画を立てても、実行できなければ、意味がありません。
むしろ、今できることを見つけて、そこからスタートする方が、よほど意味があります。
そう、何事も、大きな夢であっても、小さなことからで良いから、今始めなければと思います。
伊那食品工業会長、塚越寛氏